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zoom RSS 胎児の聴覚と生後の聴感覚〜音と音楽に関する私的ノート・2

<<   作成日時 : 2011/05/21 13:19  

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●胎児期に刻まれた原初の音の記憶

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 これは夏真っ盛りのとある湖での夕陽が沈み、間もなく漆黒の闇に移ろうとする間際の光景です。人はこうのような明から暗への転換に、ある時は命の無常を感じ、またある時は切ないほどに明日がまた来ることを祈ったに違いありません。
 その時心の状態によって、夕陽は激しく音を立てて沈んでいくようにも感じ、また譬えようもない無音の中に沈んでいくようにも感じたでしょう。この大自然の音も胎児期に母の温かい羊水に包まれて聴いた初めての音、母の血流の音の記憶と無縁ではありません。
 オーディオでいう“可聴帯域”よりはるかに広く、地上で暮らす時に耐えられる音の大小のスケール(ダイナミックレンジ)よりも、はるかに広大な、無限とも思われる音の世界。それは、十何万年という進化の過程のすべてを体験するといわれる、母の胎内で蓄積された、脳の奥深い層に刻まれた私たちの音の原点なのです。
 長じて、ある音を、いい音と感じたり、いやな音と感じたりするのは、この胎児期の記憶と照らし合わせて判断されていつのではないか、そんな気がします


胎児の聴覚と生後の聴感覚〜音と音楽に関する私的ノート・2

●胎児の聴覚はいつごろ成立するのか

 胎児の聴覚については、2段階で考える必要があるでしょう。聴覚器官としての耳が機能する前は、血流音は音のパターンとして、胎児の各部位が発展していく展過で脳の深部に記録されていくと想像します。そして耳が機能するようになってからは、人が生まれた後と、ほぼ同じような聴覚が胎内でも働いていると思います。この胎内時期の、2段階で脳内に蓄積された、原初的音の記憶が、後々人の音に対する感覚、感性に大きく影響するのではないかと思っています。

 この想像を少し裏づけるために、胎児の成長について少し調べてみました。妊娠7週目で胎児は身長2センチくらい。この時すでに脊椎は完成していて、脳の形ができ耳の穴ができています。10週目になると身長は5〜7センチになり、ほとんどの臓器が形成され、神経細胞が全身の末端まで伸びて子宮内で活発に運くようになります。
 20週目になると脳と聴覚神経が結ばれ、24週ごろに脳機能が整備され始め、五感(視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚)の中では聴覚器官が真っ先に整備され、30週目には中耳が完成し、外界の音がちゃんと聞こえるようになる。
 これが概略ですが、やはり想像していたように、胎児の五感では、聴覚がいちばん先に発達するのです。妊娠20〜30週、4ヵ月半から5ヵ月あたりで、生後に近い聴覚がそなわり、胎児は胎内外の音を聞き分けることができるようになるのです。当然、人の声も聞き分けることができ、母親の声に最大の関心を示すそうです。
 ここで、調べる必要があるのは、胎児は羊水に浮かんでいますから、生後とは聴覚が少し違っているかもしれません。前回お話した人の知覚できる音の高低の幅(周波数特性)は20〜20,000Hzですが、ある胎教関係の情報ページ(http://www.stshzk.com/taikyou/)では、羊水の中では8,000ヘルツ(Hz)以上の高い音しか聞こえていない、と書いてあるものもあります。これはもう少し調べる必要があります。また、胎内の音は血流音だけではなく、母体のさまざまな音があり、想像以上にうるさいともいわれています。この胎内聴覚の能力や母体内の音の実態については、もう少し詳しく調べてたいと思っています。

●胎内で聞いた音と、生まれた後に聞く音の関係

 人が最初に獲得する感覚が聴覚であることは、人と音、人と音楽の関係を考えるときに、大きな意味があると思います。人は母の胎内で知覚した、母の血流音の記憶をずっと脳の奥深くに記憶し、聴覚がそなわってからは、胎内の音も外部の音も耳から聴いているのです。そして体内で聴いた音の記憶を蓄積して、外部世界に生まれ出てくるのです。
 この胎児期の音の記憶は、人として成長する段階で耳にする、さまざまな音に強い影響を与えているのではないか、と思います。人には心地よく聞こえる音と、不快に感じる音があります。また、その好悪の感覚は人によって違います。同じ音でも、人によって好悪の判断が分かれるものです。
 この音に対する快不快、好悪は何を基準にして判断されているのか。これは、自然の音に対してだけではなく、音楽の音の場合も同じです。ある演奏家のヴァイオリンの音は、ある人には美しく聞こえ、ある人にはそれほど美しいとは感じられず、イヤな音に聞こえる人さえあります。こういう違いは何によって起こるのか。
「聴感」という言葉があります。音をどのように感じるか、という感覚ですが、これが人によってさまざまです。聴感が優れているとか、鋭敏である、あるいは劣るとか鈍いということは、今は考えないことにして、単純に「いい音、悪い音」「心地よい音、不快な音」という、基礎的聴感覚が人によって違うのは何に由来するのか、と私はずっと考えてきました。
 そして、この基礎的聴感覚は、母の胎内で蓄積した音の記憶と深い関係にあるのではないか、と私は思っています。ここで話が少しずれるのですが、分子生物学の福岡伸一さんは、その著書『動的平衡』(木楽舎)で、こんなことを書かれています。

― 神経回路は、いわばクリスマスに飾りつけされたイルミネーションのようなものだ。電気が通ると順番に明かりがともり、それはある星座を形づくる。オリオン座、いて座、こぐま座。―

 この回路に音や匂いなどさまざまな刺激が入力されると、刺激はその回路を活動電位の波となって伝わり、順番に神経細胞に明かりをともします。そして、

― ずっと忘れていたにもかかわらず、回路の形はかつて作られた時と同じ星座となって、ほの暗い脳内に青白い光をほんの一瞬、発する ―

 私はここを最初に読んだとき、何と美しいイメージだろう、と感動しました。日本の科学者の本を読んで、小説を読むように感動したのは、解剖学の養老孟司さんの『唯脳論』(青土社)以来のことでした。
 この福岡伸一さんの神経回路の話を援用すると、胎児期の音の記憶は、星座を形づくるように神経回路のパターンとして、脳に記録されている。そして後年、外部からの音を聞いたとき、つまり音という刺激が入力されたとき、明かりが順番にともっていく神経回路が、胎内時に形成された音の回路のパターンと一致するとき、人はこれを懐かしく、いい音と感じるのではないだろうか、そう思うのです。
 人はDNAに記録された遺伝子として母体から多くのものを受け取って生まれますが、同時に胎内で聴いた音の記憶を脳に蓄積して生まれてくるのです。母が違えば生まれてくるときに受け取ってくるものが違います。音に対する、好悪や好き嫌いという「基礎的聴感覚」が人によって違うのは、このためではないか、と思うのです。
 兄弟姉妹が似たような音の感受性をもつのは、同じ母から生まれたことによるものですし、また兄弟姉妹にも違いがあるのは、胎内時期の母の健康状態や、母の生活環境が違うことによるものと説明することができます。

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