オーディオのTPO~オーディオは生活空間、生活スタイルに合わせて選んで聴く


 オーディオをもう一度始めようという熟年世代の方、そしてやっと自前でオーディオ機器を買えるようになって意気込んでいる若い世代の方も、みんな同じように困るのは、何をどのように始めたらいいのかが、他の分野と比べて分かりにくいことです。
 たとえばカメラなら、使い途さえはっきりしていれば、その用途に合わせて何を選ぶかはそう難しいことはありません。いちばん大きい問題は予算だけと言ってもいいくらいです。そして、撮影した結果も自分の目指したものに合致しているかどうかは判断しやすいですね。さらに、腕を磨こうとすれば、多くの専門家がいて、その人たちの作品集や解説書もたくさんあります。撮影技術やカメラ操作についての解説書も、雑誌や単行本が選びきれないぐらいたくさんあります。人気機種なら、その機種だけの解説書だって、充実したものが案外安価で入手できます。

 その点で、オーディオはまず道具がシステムになっていることです。もちろんオールインワンの製品もありますが、一定レベル以上の能力を求めると、各部分が独立していることが望ましいのです。
 その各部というのは、大まかにいうと、入り口としてのプレーヤー部、信号の操作・増幅をするアンプ部、出口として実際に音を出すスピーカー部、という3つの部分で構成されています。そして、これらの部分をつなぐケーブルが必要です。しかもやっかいなことに、ケーブルの品質も音に影響があるのですから、カメラに比べるとかなり複雑です。
 そして、何からどう始めたらいいのか考えようとすると、カメラのように信頼できる案内書や解説書がありません。難しい電気関係の専門書や、メーカー別の詳しいカタログのようなものはあっても、スタートの案内役として適切ではありません。
 雑誌はどうかというと、極論すれば一定価格以上のメーカー製品の宣伝に近いような記事が大半です。オーディオをある程度分かっている人が、グレードアップするための参考にはなるかもしれませんが、もう一度とか、これからとか、という人にはあまり役立たないのです。
 これから何回かに分けて、オーディオをどう始めたらいいのか、どのようにグレードアップしたらいいのかを一緒に考えていきたいと思います。今回はその最初として、「オーディオのTPO」です。

 私の4半世紀を超える、オーディオ誌の編集者としての経験からいうと、いちばんいけないのは、高級品の組み合わせによるシステムで聴くこと以外は、オーディオとは言わない、というような考え方が、日本のオーディオジャーナリズム、業界を支配してきたことです。販売店も、東京はもちろん地方都市でも、高級オーディオ機器を扱っている専門店は、常連かマニア以外の人にとっては敷居が高くて、何となく入りにくい感じがするのです。
 私はかつて、「マニアがファンを殺す」というテーマで原稿を書こうとしたことがあります。“いい音”で音楽を聴こうという意欲をもって、オーディオ店に行ったり、友人に聞いたりすると、一定の経験や知識がないと、お店の常連や、ちょっとばかり詳しい友人たちに、子ども扱いされるか、バカにされてしまうことが多く、せっかくの意欲が萎えてしまうことがあるのです。
 そこで、私の提案は、高級オーディオ業界が売上が減少して苦しい経営を迫られている今の時代、オーディオを難しく考えず、また特殊な知識がなくても、あまり財政状態がよくなくても、あるいは音響条件のいい部屋がなくても、誰もが気軽に楽しめる「音楽を“いい音”で聴く」趣味として、オーディオを業界常識やマニアから、音楽ファンの手に取り戻すことです。

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 その第1条は、オーディオはTPOに合わせて機器を選ぼう、です。立派な専用のオーディオルームは誰でも持ちたいと思いますが、それが叶う人は幸運に恵まれた一部の人と、思うべし、です! そのような理想的環境に近づくことばかり考えていては、仕合わせ(=幸せ)はなかなかやってきません。
 まず、外で聴きたいときは、何。仕事で息抜きをするときは何。小さな狭い部屋で大きな音を出せないときは何。寝室で聴くときは何。それから、音楽を聴くことを主目的して使える部屋あった場合は何。子どもが独立してくれたので、8畳間ぐらいのスペースがオーディオに使えるようになった場合は何……と、いろいろな時間(Time)や場所(Place)、場合(Occasion、Opportunity)に合わせて、それにふさわしい機器を選ぶこと。そんな場合も安易に選ばず、出来るだけ“いい音”で聴けるものを選ぶ、それが第1歩だと思います。
 ですから、携帯プレーヤー、ラジカセ、ミニコン、そしてパソコンで外付けスピーカーを付けたり、上級クラスのヘッドフォンで聴くことも含めて、これらの従来型ハイファイオーディオでは、B級機器と軽く考えず、これらも工夫して自分の好きな音がちゃんと楽しめるように工夫をすることが大切なのです。