AVアンプはピュアオーディオ用にも使えるか?~現実的な問題を検討する

●魅力的なオーディオ批評のために

 だいぶ前のことですが、丸谷才一さんが音楽評論家の吉田秀和さんに、イギリスの作家ジョージ・バーナード・ショー(George Bernard Shaw 1856 - 1950)の音楽評についてどう思うかを聞きましたら、吉田さんは言下にこう答えられました。

「すごいよ。だってうまいこと言うもの。批評家はやはりうまいこと言わなくちゃ」

 バーナード・ショーは若いころに音楽批評も書いていたのです。そして、この答えを聞いた丸谷さんは、吉田さんについてこんなことを書いています。

― 吉田さんの音楽評論がなぜあんなに人気があるのか、わかったと思いました。つまり「うまいこと」を言っている。音楽と人間についての真実をうんと上手な言いまわし、鋭くてしゃれた小気味よい言い方で語っているからですね。すなわち詩人だからだ、と言い直してもいいけれど。―

 これは、丸谷才一さんのいちばん新しい著書『あいさつは一仕事』(朝日新聞出版)に収録されている、吉田秀和さんの文化勲章受賞を祝う会での祝辞の一節です。吉田秀和さんの音楽批評は、もちろん私もたくさん読んで感心させられるものが多いのですが、以前、こんな不満を書いたこともあります。
「吉田さんの批評は生の音楽を聴いて書かれたものと同じくらい、いやそれ以上にレコードで聴いて書かれたものが多いはずなのですが、その再生装置について触れた文章はほとんどまったくといっていいほどないのは、とても残念に思います」
 
 それはともかく、丸谷さんの吉田さん評には、オーディオ関係者が反省しなくてはならない重要な問題点が含まれています。オーディオ雑誌の記事が面白くないのは、「音楽と人間についての真実をうんと上手な言いまわし」で書いていないからかもしれない、ということです。まあ“うんと上手”ではなくても、多少でもうまく書かなければ誰も読んでくれなくなる、そういう意識をもって書かなくてはいけないでしょうね。それが、音楽批評と肩を並べるオーディオ批評を生む基本ではないかと思います。

●ピュアオーディオとAVシステムは同居できるか

 あまり元気のないピュアオーディオ(音楽を聴くためだけのオーディオ)に比べ、AV関連分野は、ブルーレイ(Blu-ray)・ディスクの普及、3D映像の登場、地上デジタルへの移行と大きな話題が重なって、元気一杯。この長い景気低迷期を家電の雄として牽引しているといっても過言ではありません。
 ここで問題になるのが、AV系の音のシステムとピュアオーディオは両立できるか、あるいは厳然と分けるべきかということです。しかし、特別な視聴室をもっている人は別にして、テレビやAVソフトを見るシステムと、オーディオを聴くシステムを別にすることは一般家庭では難しいと思います。そこで今日は、AVシステムとオーディオシステムは兼用できるかどうかについて考えてみたいと思います。

 ディスプレーがブラウン管テレビで、サイズが20~30インチクラスの時代であれば、オーディオに悪影響を与えないように、テレビのセッティングを工夫して、同居させることはそれほど困難ではありませんでした。そもそも、音が2チャンネルであれば、オーディオシステムの中にAVのテレビが入ってくると考えればいいわけですから、複雑な問題は発生しません。つまり左右のスピーカーの真ん中にテレビを置き、オーディオ用のアンプにAV機器のオーディオ信号を接続するだけです。
 その際にオーディオ雑誌などが問題にしたのは、スピーカーの間に大きなテレビを置くと、音の回折が生じたり、スピーカーの音圧でテレビのどこかが振動してノイズを発生させるなどの悪影響が生ずる可能性がある、あるいはビデオ機器とオーディオ機器を近接して置いたり、重ね置きすると電波による妨害が起こりやすい、などというものでした。
 しかし、これらはの問題は、音が変だなと感じたらテレビの置き方を少し変えてみるとか、ビデオ機器とアンプの距離を離すなどして簡単に修正できます。少なくても一般的な家庭で聴く程度の音量であれば、ほとんど問題ありません。この時の調整に役立つのが、本連載で何度も話題にした“いい音”は何か、ということです。 
 特に2月17日掲載の 「生の音を追体験できる音」がオーディオの“いい音”」(http://audio.b.station50.biglobe.ne.jp/201002/article_4.html)で述べた「自然(ナチュラル)な感じで生の音のイメージと合致しているかどうか、不自然さがないかどうか」が判断できれば、オーディオシステムの中にAV機器を持ち込んでも、調整については恐れることはありません。自分の耳で判断しながら自信をもってセッティングすればいいのです。

 今いちばん問題になるのは、テレビの画面が横長でサイズが大きくなっていること、音声がマルチチャンネルの場合の対策でしょう。
 まず、テレビですが、家庭で使われるサイズは50V型以下が普通ですね。それ以上のサイズの場合はそもそも部屋が大きいはずですので、対策はいろいろな方法が可能なのであまり心配はいりません。今日問題にしたいのは、50V型以下のサイズのテレビを中央に置いて、テレビの音声、DVDやブルーレイソフトのマルチチャンネルと、ピュアオーディオの2チャンネルをどう両立させるかということになります。

●ポイントは優秀なAVアンプを使うこと

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デノン(DENON)のAVアンプ「AVC-4310」。上はフロント、下はリアです。定格出力はフロント130W+130W、センター130W、サラウンド130W+130W、サラウンドバック130W+130W(8Ω、20Hz-20kHz、THD0.05%)

 ピュアオーディオの場合、一切の制約を無視すれば、機器の性能は重量と大きさに限りなく比例する、ということが定理のようにいわれてきました。重厚長大は“いい音”の代名詞に近かったのです。アンプでいえば、プリメイン型よりもセパレート型、そしてパワーアンプはステレオよりモノーラルがいいとされてきました。
 その考え方からいえば、AVで便利なAVアンプはプリメインアンプとあまり変わらないサイズのボックスに、最低でも5チャンネル、最近では7チャンネルを超えるアンプが収納されています。その上、ドルビーデジタルやDTSなどのサラウンド音声処理の回路も組み込まれています。これはオーディオの“いい音”のための古典的原則を大きく逸脱していると思われても仕方ありません。
 純粋主義からいくと、1つのボックスに複数のアンプを入れることは、少なくても音質にとっていいことではないのは確かです。アンプ間の干渉も問題ですし、配線も複雑になりますから外部からの妨害波も受けやすくなりますし、電源にも大きな負荷がかかります。 しかし、AVのマルチチャンネルを再生するために、チャンネルと同数のアンプを用意してセットするのは、一般家庭では非常に困難です。代表的な5.1チャンネルを再生するには、コントロールアンプのほかに最低でも4つのモノーラルアンプ、もしくは2台のステレオアンプが必要となるのですから、スペースやコストの面でも現実的ではありません。AV再生には、やはりAVアンプを使うのが得策です。
 そこで問題は1歩進んで、AVアンプは2チャンネルの音楽ソフト再生に十分な能力があるか、ということに絞られてきます。結論からいいますと、現在の価格で25万円程度以上の価格のAVアンプなら、オーディオ用として十分な能力がある、と私は思います。現実に私はここ数年、かなり多くの時間をAVアンプの2チャンネル使用で、音楽を聴いていて、何の不満も感じません。
 日本の代表的なアンプメーカー、デノン(DENON)のAVアンプのラインナップをみますと、63,000円の「AVC-S500HD」から735,000円の「AVP-A1HD」まで、何と12モデルものAVアンプがあります。メーカーによってはもっと高額の製品もあります。ここでちょっとデノンのホームページをご覧ください(色文字列をクリックすると該当ページが開きます)。この豊富な製品群の中から、AVソフトも聴くが、2チャンネルの音楽ソフトも“いい音”で聴きたいという方は、20万円から上のモデルを選ぶと安心だと思います。
 もし、スピーカーが小型であれば、これより下位のモデルでもいいのですが、ある程度のサイズの3ウェイシステムを前提に考えれば、狙いはズバリ252,000円の「AVC-4310」、余裕があればさらに上のクラスにされてもいいでしょう。
 スピーカーは一定以上のサイズで優れた製品を選んだほうが、AV再生でも有利です。AVの5.1チャンネル再生の「0.1」は低音用チャンネルですから、低音再生力のあるスピーカーなら、「0.1」のサブウーファーは不要なのです。そもそも音楽ソフトの録音では、低音用の独立したチャンネルはありません。5.1チャンネルの基本は、実質チャンネルをもつ5チャンネルなのです。

●AV再生とピュアオーディオ再生は積極的に同居させるべきだ

 私はLD時代後期から今日までずっと、AVアンプとビクターの3ウェイスピーカー「SX-10spirit」を組み合わせて、音楽ソフトを聴いています。オーディオの専門的な仕事のためには特別な大型システムを使っていましたが、この「SX-10spirit」は、LDやDVD、最近ではブルーレイのソフトを聴いたり、NHKのN響アワーなどの音楽番組もこれで聴いています。
「SX-10spirit」は1982年に発売された、もう中古でしか手に入らないスピーカーですが、32センチウーファー+6.5センチスコーカー+3.5センチトゥイーターが、美しい鏡面仕上げの、しっかりした木製キャビネットに収められ、その上サランネットがなく、各ユニットにはパンチングメタルのカバーがつけられているというユニーク外観をしています。ビクターのスピーカーでも、ミドルサイズクラスでは出色の出来の製品だと思います。
 最近は地上デジタル放送で音楽番組が送られてきます。この放送が画質もいいのですが、音の面でも大きなメリットがあって、SN比がアナログとはかなりの違いがあります。LDやDVDに引けをとらない優れた音質です。音楽映像ソフトは放送を含めて、これからはもっともっと音楽の主要なメディアとして楽しむのがいいのではないかと私は思います。
 映像つき音楽ソフトは、とかくオーディオマニアが音のクオリティを気にしますが、その音質は目覚しく向上しているのです。今日の結論として、AVとピュアオーディオを何とか工夫して両立させることが、音楽とともにある生活の充実に大いに貢献するということです。マニアの心配は無視して、大いに映像のある音楽を楽しみましょう。そのキーポイントになるのが、優れたAVアンプの選択ということになります。