アンプの出力量と再現力の関係~アキュフェーズ「E-305」追補

画像


 アキュフェーズの創立時メンバーによる、1972年2月ごろの製品企画会議の際に撮影された写真です。右から5人目が初代社長・春日二郎氏、左端が2代目社長・出原真澄氏。お2人とも故人となられました。


・アンプの出力はスピーカーの出来と深い関係がある

 今回はアキュフェーズ(Accuphase)のプリメインアンプ「E-350」の項で、少し説明が不足していたところを補足します。友人がなぜ上級機の「E-450」より「E-350」を選んだかという理由として前々回は、

― すぐ上の「E-450」を聴いてみたんだけれど、不思議だね。どう聴いても安い「E-350」のほうが私にはよく聴こえるんだよね。やっぱり、オーディオって奥が深いなあとあらためて感じたよ。―

 としか言及しませんでした。そして「E-450」の寸法重量は、横幅はまったく同じで高さが1センチ高く、重量が2.7キロ重いだけ。しかし、出力は「E-350」の「4Ω:140W×2」に対して、「E-450」は「260W×2」とかなり違います、と追記のような形で書きました。
 アンプの上級モデルと下位モデルでは、出力量の違いが大きなポイントの1つになることは間違いありません。アンプの出力はインピーダンスピー(抵抗値)によって変化しますので、もう少し詳しく比較すると、両チャンネル同時動作、20~20kHzの帯域での定格連続平均出力は、アキュフェーズのカタログによれば(E-350:E-450)、
 4Ω負荷 → 140W×2:260W×2
 6Ω負荷 → 120W×2:220W×2
 8Ω負荷 → 100W×2:180W×2
 ですから「E-450」は「E-350」の2倍まではありませんが、80~86%ほど大きくなっています。ちなみに価格は、E-350が367,500円でE-450が483,000円(いずれも税込)ですから、E-450が31.4%ほど高くなっていて、こちらの差は出力ほどではありません。

 では、アンプの出力量と再現性はどのような関係があるのでしょうか。一般的には、大出力アンプのほうが大音量を出せるのはもちろんですが、再現性も高いといわれています。というのは、アンプがつながれるスピーカーという存在が非常にヤッカイな性質をもっているからのなのです。それは設計者の違いを見てもわかります(!?)
 他のオーディオ機器の設計者に比べて、スピーカーの設計者は個性的で芸術家肌の人が多く、再現性についての自己主張が大変に強いのです。JBLで知られるジェイムズ・B・ランシング(James Bullough Lansing 1902-1949)という人はその代表的な存在でしょう。彼のような天才的設計者は、自分の再現性に対する理想を実現することがすべてに優先しますから、とりあえずはアンプの性能を気にせず作ってしまうことが多いのです。これはちょっと極端な説明なのですが、スピーカーは優れたスピーカーであればあるほど、そういう傾向にあります。
 このようなスピーカーを駆動するには、とりあえず出力量は大きいほうが有利なのです。どんな複雑な機構をしていても、具体的に言えば、振動板が重くても、磁気回路が巨大でも、ある帯域で極端にインピーダンスが下がっても、あるいはネットワーク回路が複雑でも、出力量が大きければアンプが受けるダメージは小さくなります。スピーカー側からいえば、たとえ十分ではなくても不満は小さくなります。
 本当は出力量だけではなく、電源部の能力も大きく影響するのですが、今はこう考えておくほうが分かりやすいので、こういっておきます。そうすると、私の友人の場合も、E-よりE-450のほうが、いいはずなのですが、聴感上の比較では下位モデルのほうがよかったというのです。この原因は次のようなことが考えられます。
 それは、出力量の大きいアンプは、時にスピーカーを押さえ込むような働きをしてしまうことがある、ということです。このデジタル全盛の時代になんともアナログっぽい言い方ですが、少し前のところで書きました、振動板や磁気回路、ネットワーク回路などが複雑な場合、これをスピーカーの希望通りに駆動するには大きな出力は確かに有効です。
 しかし、逆に出来るだけ軽い振動板を使い、ネットワークもシンプルに作られたタイプのスピーカーなら、アンプの出力量が大きいと、少し面食らってしまう、ということがあるのだと思います。か細い小柄な女性が重量級のレスラーに抱きしめられているようなシーンを想像いただければ、なんとなく私のいいたいことはご了解いただけるかと思います(!?)

 じつは、これを裏付ける証言があります。アキュフェーズの創業者にして初代社長の春日二郎さんが、1,000W出力のモノーラルパワーアンプ「M-1000」完成後に、私の雑誌のインタビューに答えたものです。

― 昔はピークをクリップさせないことや、電源のゆとりということから、(アンプ出力は)せいぜい300Wか400Wくらいで十分と考えていたときもありました。しかし、段々パワーを上げていくと、非常に音が静かになり、聴感的なS/N感がよくなる。ドッシリとした底力が出てくる。音像がクッキリと鮮明になり、プレゼンスが増すことがわかり、どこまでハイパワーの効果が出るものか興味をもっていたところに1kWの提案があったのです。―

 ここで春日さんがいわれている“非常に音が静かになり、聴感的なS/N感がよくなる”という発言は、アンプの出力量が大きくなったときに、スピーカーを制御する力がどう変化するかを端的に物語っています。
 この発言と私の体験を総合して判断しますと、一定レベルの技術力で作られていることが前提になりますが、一般的な家庭の試聴スペース、6畳~10畳間であれば、特に複雑な機構のスピーカーでない限り、アンプの出力量は、インピーダンスが4Ω前後で100W前後あれば十分、ということは、8Ωでは80Wもあれば問題はありません。これ以上出力が大きいと、スピーカーによっては鳴り方が少し重苦しくなったり、鈍重になるという逆効果が発生することもある、ということなのですね。
 しかし、出力量の大きいアンプでそのような音の傾向が出る場合でも、少し時間をかけてスピーカーとアンプを馴染ませてやると、いい方向に変化して行く場合があります。むしろ、そのほうが最終的には“いい音”になる場合もあります。友人の場合は、部屋とスピーカーの大きさや機構によって、少し出力が小さい「E-350」のほうが、反応がスムーズで、全体に自然なイメージとなったのでしょう。こういう微妙な違いに戸惑うこともまた、オーディオの楽しみなのだと思います。
 なお、春日さんの発言の“せいぜい300Wか400Wくらいで十分と考えていた”という部分は、超高級機のモノーラルアンプの分野の話をされているからで、一般的な家庭における再生ではそれほどの大出力は必要ありません。