アキュフェーズ「E-305」の優れた再現力にオーディオの奥の深さを知る(2)

・惚れ惚れとする外観と充実した内部構成

「E350」を少し詳しく見てみましょう。フロントパネルに大きなメーターがあるのは、アキュフェーズ(Accuphase)の特徴的なデザインの1つです。正確な対数圧縮型のピークレベル表示ですが、この数値を読み取って何かの参考にする人は、実際にはほとんどいないかもしれません。
 しかし、アンプからスピーカーに送られる信号の出力量の変化を、リアルタイムに表示する針の動きは、精密機器としての精度の高さを象徴するものであり、また優雅な指揮者の姿を彷彿とさせ、聴く者を音楽が演奏される場に導くかのような臨場感を演出してもいます。
 そのメーターの横幅に合わせてシーリングパネルがあり、その中央に「integrated stereo amplifier e-350」とスッキリした書体で機種と型番がさりげなく書かれています。何でもないようですが、これを野暮ったくならずに見せるには、書体の選択や文字の大きさ、そして位置が適切でなければなりません。そして、シーリングパネルを開くと、中央に6つの丸型で小さい機能切替えボタンがあり、その両側につまみやすい縦型バーつきのスイッチが3個ずつシンメトリーに配置されています。
 そして、メーター部をカバーするアクリルの厚みには存在感があり、両サイドに配置された入力切替とボリュームの丸型スイッチには、思わずそっと触れたくなるような高い質感があります。いずれもアキュフェーズの、奇を衒うところのない伝統的なデザインですが、いつまでも飽きのこない、いい仕上がりだと思います。こうして「E350」は、目の前において眺めるだけで、いい音が聞こえてくる気配を濃厚に感じさせてくれるのです。

画像


 オーディオに限らず、時計でも車でも趣味性の高い分野の製品は、見る者の心にまっすぐ語りかけてくる“誘波”を発しているもので、これを受信すると、人は抑えようのない所有欲を掻き立てられてしまうのです。日本のオーディオ機器でそのような発信力をもったものとしては、アキュフェーズのアンプがいちばん早かったのではないかと思います。
 実際に手に入れて、フロントからリアパネルの端然とした端子類の配置に納得し、そしてその内部を見るに及んで胸の高鳴りは頂点に達します。ご覧ください。

画像

画像


 ボリュームの後方部はプリ部のセクションです。そしてそれ以外の大半を占めるのがパワー部で、四角いカバーがついた物体はトランス、その手前の2個の円筒形の物体は電解コンデンサー。この2つの大きな部品を中心にしてアンプの心臓部である電源部が構成されています。
 音楽信号は周波数の帯域幅が広く、また小さい音から大きい音までの音量幅も大きく、さらに、小さい音から突然大きな音になることも多いので、アンプには瞬時に必要な電力をスピーカーに供給する能力が要求されます。その点、アキュフェーズは創業以来、安定度が高く、しかも容量の大きな電源部をもつセパレートアンプが主力製品だっただけに、このクラスのプリメインアンプの電源については、圧倒的な信頼性を誇っています。
 電源部の左右に見えるのは、大型ヒートシンク(放熱器)と、それに取り付けられた増幅部です。各部の詳細については、「アキュフェーズのホームページ」の解説とカタログをご覧ください(色文字列をクリックすると該当ページが開きます)。

・「E-350」のスピーカー駆動力

 いいアンプでスピーカーを駆動すると、驚くほど音は変化します。オーディオ誌のアンプを紹介する記事を見ると、明るい、華やか、解像度が高い、繊細な表情、充実した低音などと、どの製品のほめ言葉としても使えそうな評価語が並んでいますが、私の考えるアンプのスピーカー駆動力とは、そういう次元とは少し違います。
 いいアンプにスピーカーをつなぐと、スピーカーの音が部屋の空気をしっかりとつかむようなイメージが感じられる、これがまずいちばんの急所だと思います。乱雑な部屋の空気を、キュッと引き締めて緊張感がみなぎるのですね。音がない時の静寂も深まります。あっ、これは何かが違う、と直感できる変化なのです。音の肌触りが滑らかになったとか、高域の金属臭鋭が軽減された、あるいは低音域の重量感が増した、音の解像度が増したなどという変化に気づくのは、その後のことなのです。「E-350」もそのような駆動力をそなえたアンプなのです。
 アンプを評価する場合、かつては回路方式や増幅素子、あるいは使用部品の品質、出力量などが問われましたが、現在は一定レベル以上のメーカーの製品であれば、ということは専門店が特売品ではなく、定番品として扱っている程度の製品であれば、あまり気にすることはないでしょう。また、そういう面に関心のある人は、メーカーのホームページやカタログを調べれば、オーディオ雑誌が書くことぐらいはすぐに調べがつきます。
 アンプに今もっとも問われているのは、スピーカーの駆動力なのだと思います。なにしろ、ヘッドフォンで聴く携帯デジタルオーディオに使われているアンプなどは、どこにあるのか分からないほど小さな頼りないものですが、それでも多くの人を素晴らしい音響に誘い込むことができるのです。
 そんな時代に大掛かりなアンプが必要なのは、スピーカーという、暴れ馬のように御しがたい機器を駆動して、ヘッドフォン音響とは次元の違う、自然で臨場感の高い再現性を得ようというのですから、その点の力量こそが重量なのです。
 アキュフェーズのアンプの良さは、その駆動力を常に高いレベルで備えている、という信頼が持てるということです。その信頼感を支えているのは、長年にわたる技術の蓄積と、創業以来一貫している頑固なまでの真摯な物づくりの精神です。
 アキュフェーズの技術陣がどれほど頑固かといえば、ご存知のように、創業者にして初代社長の春日二郎さんも、2代目社長の出原真澄さんも、設立時の主要メンバーは全員、トリオ株式会社(後、ケンウッド)の出身です。1960年代後半から1970年代前半にかけての日本は、高度成長経済真っ盛りの時代ですから、オーディオメーカーもその波に乗って売上高を競う経営体質に変化することを求められていました。その結果、大量の売上げを見込める量産品に主力が置かれ、高級機の製造は主役の座から追われつつあったのです。
 トリオのそういう体質を見限って新たに組織されたアキュフェーズは、時代の主流である経営体質を排して、あくまでも趣味性の高い製品作りに徹してきました。そして、後に真空管が人気を盛り返しても、増幅素子はトランジスタで行くという最初の路線を守り通し、作れば売れたに相違ない真空管アンプには見向きもしなかったという、そのぐらい自分たちの決めた方針を守ることにかけては頑固な人びとが、アキュフェーズを支えているのです。
「E350」はそのようなアキュフェーズ製品の中で、比較的入手しやすい価格帯にある製品です。といっても、決して安価とはいえません。そのかわり、もしこのクラスのアンプに適当なサイズのスピーカーを使っている場合は、グレードアップの有力なアンプとして、お勧めできる実力機です。一度、専門店などで、試聴してみてください。