アキュフェーズ「E-350」、オーディオの奥の深さを知る優れた再現力(1)

●オーディオ歴の長い友人が惚れこんだ「E-350」

 日本の優れたマスタリング技術の後半に入る前に、もう1つ別な話題でお口直しをしていただきたいと思います。今日のテーマはアンプです。
 アンプはオーディオ再生ではなくてはならない中心的存在の機器ですが、直接音を出すことがないので、その性能や音質については、スピーカーのように華やかな形容詞を並べられることがありません。それに、スピーカーは外観自体が変化に富んで、それを語るだけでも面白いのですが、アンプは単なる四角っぽい重たい箱に過ぎません。どこから見ても地味なのであります!
 私はかつて音楽・オーディオ誌の編集長をしておりましたが、スピーカーの特集を作る場合は、テーマがいくらでも浮かんできましたが、アンプではなかなか魅力的なテーマが見つからなくて困ったものです。この連載でも、アンプをどのように紹介したら喜んでいただけるか、現在も思案中です。
 しかし先日、ある友人に久しぶりに会って聞いた話をお伝えするところから始めてみようか、という気になりました。友人は昨年秋にちょっと大きな病気をして、やっと少々ならお酒も飲めるという段階にまで回復したのですが、その記念に自分だけのために何か特別記念になる品物を買おうと考えたのだそうです。そして、ハタと手を打って決めたのが、なんと、いいアンプを買うことだったのです。そして、彼が選んだのは、アキュフェーズ(Accuphase)のプリメインアンプで「E-350」でした。

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 彼はロックの焼酎を少しずつ口に含みながらこういいました。

― 病気をして少しずつ回復してくると、これからの残りの人生は仕事も大事だけれど、じっくり音楽を聴く時間をもっと増やしたいと思ったんだ。オーディオシステムはほったらかしにしておいたわけではなく、ちゃんと手入れをして時々は聴いていたんだけれど、気合を入れてやり直したくなってね。それで、アンプを入れ替えることにした。1年ほど前に聴く機会があって、そうだ買うならあれだって思ったのがアキュフェーズの「E-350」。
 家に届いてつないで、最初の音を出したときに、ああこれだ、って思った。五味康祐さんがオートグラフを聴いたときのような、涙が出るほど大げさな感動じゃないけれど、ああこの音なら長く付き合えるなって、安堵感がじんわりと湧いてきたなあ。―

 彼はオーディオ歴が長く、これまでずいぶんいろいろなアンプを使ってきたのだけれど、人生の終盤にきて、穏やかな気分でじっくりと聴く音として、狙いどおりの音を出してくれた、アキュフェーズのプリメインアンプに満足そうでした。
 オーディオはスピーカー探しに始まって、アンプ選びに終わる、といえるかもしれません。単なる電気信号を実際の音に変換してくれるのがスピーカーですから、いい音、あるいは好きな音と言い換えてもいいのですが、狙った音を追い求めるには、まずスピーカー選びが最初の重要なステップとなります。
 まあ、そうはいっても気に入った音の出るスピーカーなんてそう簡単に見つかるわけがありません。それに、1万円札を100円玉のように使える人なら別ですが、多くの人には予算の制約があります。次々に買って、取っ替え引っ換え試すわけにはいきませんから、スピーカー選びはまさに地獄の苦しみです。しかし、後年振り返ると、その試行錯誤の苦しみもオーディオの楽しみの1つだったのかもしれない、と思う人が多いのです。友人も私もそういう愚かな(!?)オーディオファンだったのです。
 そして、友人も私も老境の入口に差し掛かって、近ごろ妙なオーディオ感をもち始めていることに気づきました。あまり大型ではないスピーカー、せいぜいが1本20~30キロぐらいの重量で、直接床に置けるタイプ、もしくは専用スタンドつきのブックシェルフ、そして、ある程度の水準に達していると自分が確信できるスピーカーなら、これを買い換えることはせず熟成させることに努力する、そのほうが、ゆったりと音楽を楽しむことが出来るのではないか。そのためにはいいアンプを選ぶことが必要だ、と。
 大型の何百万円も要するスピーカーシステムは、50歳台までの人にこそふさわしい、そう思い始めたのです。もっとも、大きな専用の部屋を持ち、ふんだんに資金のある、そして重たいものを移動するときに、すぐ助手を手配できる人で、体力気力ともに人並みはずれた人はこの限りではありません。
 酒をゆっくりと酌み交わして話すうち、このようなことがお互いにわかってきたので、友人が今、どんなスピーカーを使っているのかは、あえて訊きませんでした。ただ、ずっと使ってきたスピーカーが、まるで精気を取り戻したように、生き生きと鳴り出し、次から次へとディスクを引っ張り出したくなっている彼がよく理解できるのでした。

― でもね、アキュフェーズのプリメインには4機種あるでしょ。やっぱり買うときには気になって、すぐ上の「E-450」を聴いてみたんだけれど、不思議だね。どう聴いても安い「E-350」のほうが私にはよく聴こえるんだよね。やっぱり、オーディオって奥が深いなあとあらためて感じたよ。―

 下の写真はアキュフェーズの「E450」です。外観は仕上げも大きさもほとんど変わりません。横幅はまったく同じで高さが1センチ高く、重量が2.7キロ重いだけ。しかし、出力は「E-350」の「4Ω:140W×2」に対して、「E-450」は「260W×2」とかなり違います。(本稿続く)

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