B&W 805 Diamond ~英国モニター系の最新2ウェイ機(1)

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 B&W(イギリス)「800 Diamond」シリーズの最新8モデルが4月から順次発売されます。写真は今回ご紹介する、シリーズ中で唯一の2ウェイブックシェルフ「805 Diamond」です。仕上げが3種類ありチェリーウッドとローズナットが588,000円(ぺア/税込)、ブラックが630,000円(ぺア/税込)。
 4月27日掲載号で、同じイギリスのATCのスピーカーを紹介しました。ATCは設立は1974年ですからすでに30数年のキャリアをもつ中堅メーカーなのですが、その製品が本格的に日本に紹介されたのが1990年以降であったため、あえて私は新進メーカーといいました。
 一方、B&Wの設立はATCより8年ほど早いだけなのですが、あの歴史に残る名機「Matrix 801」の登場が1972年だったので、ATCに比べるとずっと以前に生まれた老舗という印象を受けてしまいます。もっとも老舗といえば、タンノイやJBLはすでに80年を超える歴史をもつ大先輩ですが。

 B&Wといえば今では世界的に知られるオーディオでは大企業ですが、スタートはジョン・バワーズ(John Bowers)が1965年、友人で電気店をもつロイ・ウィルキンス(Roy Wilkins)と、その地域の顧客のために手作りでスピーカーを組み上げる事業を始めたという、まさに大河の源流のようなささやかな規模のものでした。下の写真はその当時の店構えです。

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 翌1966年、バワーズは生涯の友人であるピーター・ヘイワド(Peter Hayward)と「Bowers & Wilkins Electoronics Limited」を設立し、本格的なスピーカーメーカーとして歩み始めます。場所はロンドンから数10キロほど南のイギリス海峡に面したワージング(Worthing)でした。B&Wはバワーズとウィルキンスの頭文字からとられているのです。
 その歴史をちょっと調べていましたら、興味深いことが書かれていました。バワーズがクラシック音楽に詳しいことに感心していた、ナイト(Knight)という老婦人がいたのですが、バワーズは彼女のためにスピーカーを作ってあげたのです。ナイトはこれを大変に喜び、感謝の気持ちから、今後のビジネスの発展のためにと、1万ポンドの遺産を寄贈したのだそうです。それ以上のことは書かれていないので詳細は不明ですが、ふとチャイコフスキーとナジェジタ・フォン・メック(Nadezhda Filaretovna Frolovskaya)夫人のことを思い出しました。作曲とスピーカー作りの違いはありますが、才能の開花に女性の力が関与していた、というのは心温まる話ではありませんか。

 さて、B&Wのモニタースピーカーといえば、何といっても1972年に登場した「Matrix801」。ロンドンの「EMI アビイロード・スタジオ」のモニタースピーカーとして活躍し、録音スタッフの信頼を得て、数多くの名録音の影の立役者となったことは広く知られています。
 私が実際に接したのは、7年後の1979年にモデルチェンジされた「Matrix801 Series2」です。雑誌社の編集者をしていたころ、いちばん長くモニターとして使いました。あのズングリしたウーファー付きの胴体に、やや横長の八角形のスコーカーが載り、さらにその上に丸いトゥイーターが載った独特の姿を記憶している方も多いことでしょう。サイズは430(幅)×950(高さ)×560(奥行き)mmで重量は1台44kgでした。

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「Matrix801」は純然たるスタジオモニターなのですが、しっかりした構造の試聴室であれば何の問題もなく使えましたし、20畳ぐらいの広い部屋があったら、家庭用として音楽を楽しく聴ける柔軟性も併せもっていました。事務所の試聴室で長い間、たくさんの音楽を聴いて、私はこのスピーカーを完全に信頼していました。何か変だな、と感じたら、その原因はスピーカー以外にある、と確信できたのです。
 日本のオーディオ界では、ブリティッシュ・サウンドとかヨーロピアンサウンド、ウェストコースト・サウンドなどと呼んで、そのスピーカーの本質を言い当てたように思う変なクセがあります。私が知り合ったベテランのオーディオライターも、そうした一人でB&Wについてはこんなことをいっていました。
「伝統的なブリティッシュ・サウンドは、華やぎすぎずコクがあるし、それに、暖かく深みがあって……等々、その魅力は限りないのだが、一面では、少し地味にすぎると感じる人もいるはず」
 いろいろなイギリスのスピーカーを聴いて、私は少しもそんなことを感じないのですが、さすがオーディオの専門家は違う能力ももっているものだ、と感心したものです。もちろん皮肉です。このベテラン氏は続けてこういいます。
「B&Wが違うのはそこだ。けっして派手なのではないが、この音のHi-Fi的薫りづけは、聴く者の心をフッと舞い上がらせてくれる。そんな心地よさになっている」
 これが、ベテラン氏の受けたB&Wのスピーカー全体に対する印象なのです。なるほどうまいことをいわれる。語彙が少なく、必然的に類型的表現が多くなる人たちとは少し違った工夫があります。しかし、これがイギリスのスピーカーやB&Wの製品の評価として正しいかとなると、大いに疑わしいのですね。
 ジョン・バワーズとその仲間が心血を注いで求めたものは、実際の音とスピーカーから出る音とのギャップを埋めることだった、と彼ら自身はいっています。そして、もっとも優れたオーディオシステムは、演奏された音空間を再構築して、ああこういう音で聴きたいという気持ちにさせるものだ、ともいっています(本国のB&Wのホームページをごらんください。色文字をクリックすると該当ページが開きます)。
 そのための技術が「801」には、ふんだんに投入されています。ひとつは振動板素材と磁気回路、そして複雑なマトリックスと呼ばれるキャビネットの内部構造、そして受け持ち帯域別にそれぞれ独立した部屋を与えて組み上げるというシステムの全体的な構造。むしろ無機的といいたくなるほど冷静な技術志向がB&Wの特徴だと思います。(この項続く)