マルチチャンネルとステレオ(3) センターチャンネル ディスクプレゼントあり

 なぜ、家庭で音楽を再生するには必ずしも必須なものではない、センターチャンネルをもつ「5.1チャンネル」の音声規格が、DVDやBD(ブルーレイディスク)に標準装備されているのだろうか、というのが今回のテーマです。
 結論から申しますと、それはこの規格がそもそも映画館の音声のために考えられた規格から生まれたものだから、ということです。映画館のスクリーンの横幅は、かなり大きいので、音が左右の2つのスピーカーからだけで再生されては、座る位置によっては自然さが損なわれたり、聞きとりにくくなってしまいます。そこで映画館では、DVDの出現以前から、スクリーンの背後にも、あるいは後方にも、いろいろなところにスピーカーを設置して、観客がどこに座ってもほぼ等しい音で聴けるように工夫をしていたのです。
 この映画館の音声再現システムは、1本ずつのスピーカーにそれぞれ独立したチャンネルを与える場合も、1つのチャンネルを複数のスピーカーで再生する場合もあり、映画館の大きさや形などを考慮して工夫が凝らされています。セリフを聞き取りやすくする目的からスタートした映画館サウンドは、今日ではさらに発展して多数のチャンネルを用意し、数多くのスピーカーをコントロールする独自システムを採用した特別サウンドを再生する映画館も出現しています。
 この映画館の音響システムが元になって、家庭用に集約された方式が、前方3チャンネル、後方2チャンネルの5チャンネルだったのですね。これに家庭用システムで不足しがちな低音チャンネルを付加してこれを「0.1」と表記したので、「5.1チャンネル」なのです。DVDもBDも人気が高く、ソフト数も多いのが映画ですから、当然映画館サウンドを家庭でも堪能できることが、大きな目標であったのです。
 AV関係(アダルトではなく、オーディオ・ビジュアルの略です、念のため!)の雑誌でも、しきりにセンターチャネルがあって、初めてセリフがしっかり登場人物の口元と一致する、などと書かれています。大きな映画館で見る場合は2チャンネルだけの再生では、確かにセリフがあいまいになることもあるでしょう。しかし、平均的な家庭の広さと思われる10畳間前後以下の部屋なら、2チャンネルでセリフの定位があいまいになることはない、と私は思います。
 試みにDVDでもテレビ番組でも、何か人物がセリフをいう映像をご覧になってみてください。左右の間に置かれたディスプレイ(受像機)の位置が、きっちりと中央になくても、あるいはスピーカーと受像機の高さが少々ずれていても、2本のスピーカーからの再生で、人物の声は話している人から発せられているように間違いなく見えます。ずれて聞こえるなどという人は、ほとんどいないはずです。
 ただし、センターチャンネルを有効に使うことによって、セリフの定位だけではなく、動く物体の移動感や、立体感覚の精妙さを高めることはできるでしょうが、家庭内再生ではそれほど大きな効果が出ないのではないかと、私は思います。

 個人的な感想はともかく、映画館で始まったマルチ(複数)チャンネルの再生は、ドルビーやDTSの5.1チャンネルサウンドとして、家庭内AV再生でも、もうすっかりお馴染みになっていて、サラウンドならではの臨場感あふれるサウンドで映画を楽しまれている方も多いことでしょう。
 ところが、この映画で高い効果を発揮する5.1チャンネル規格ですが、これと同じ規格で音楽を録音し再生しようとすると、臨場感あふれる立体的な効果が出せるからいいじゃないか、とは必ずしもいえないのです。その難しさの1つが前回お話したセンターチャンネルをどう使うか、ということだったのです。しかし、せっかく用意されたチャンネルなのですから、これを有効、適切に使えば、従来のステレオより臨場感が格段に豊かになるのではないか、とも考えられます。
 私が関わった、パイオニアから発売されたいくつかの映像付録音作品は、単に美しい風景と音楽を組み合わせて、DVDやBDの真価を生かそうとするだけではなく、どうしたら5.1チャンネルが、2チャンネルステレオより“いい音”なるかを追求した研究の成果を記録したものでもあるのです。
 もっとも数多くの録音したのが、クラシック音楽のピアノ・ソロ演奏でした。1台のピアノを1人の演奏家が弾く、もっとも小さな編成ですので、1人の演奏家さえ協力してくれれば、何度もテスト録音を重ねることができます。そして、いくつものテスト録音を克明に比較検討する場合も、1台のピアノの音は他の何よりも判断しやすかった、というのが大きな理由です。
 スタッフの意見は、最初はなかなか一致しませんでした。これはいいところまで追い込んだのではないか、と私が思うと、いやこれではセンターのチャンネルが十分に働いていない、とプロデューサーが不満をいい、いやこれ以上センターを生かしたら定位感があいまいになる、とベテランエンジニアが言い返します。楽器のスケール感は十分に表現できているのではないか、という意見が出ると、いやピアノの大きさが異様に感じられる、左右の広がり感はいいが奥行き感が薄くなる、などと常に甲論乙駁。時には険悪なムードが漂い、その日の録音は中止、などということもありました。

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 前回は録音用のマイクをご覧いただきましたが、今日は楽屋に特設したモニタールームのスピーカーです。これはイギリスATC社の特注3ウェイモニターです。センター用は3つのユニットが中心線に合わせて取り付けられていますが、左右用はトゥイーターとスコーカーがウーファーよりセンター寄りにセットされています(写真上)。リアは前方の左右用と同じものを使っています(写真下)。そして、5本のスピーカーはパイオニアが特別に作った、キャビネットの材質に近い木製のスタンドに、前方にやや傾斜してマウントされています。5本の配置はレーザー光測定器で正確に距離を測って位置決めされています。家庭内での再生に近い試聴ができる環境でモニターするのが、マルチチャンネル録音には重要なのです。
 このような数年に及ぶ研究の、それぞれの成果が確認された時点で何枚かのディスクが生まれたのですが、そのピアノ演奏の最新版はモーリス・ラヴェルのピアノ曲からよく知られた「クープランの墓」「ソナチネ」「水の戯れ」を収録した「Spirit of NA AINA」(PEBDV-304)です。“NA AINAはハワイ語で“大地”という意味です。映像はハワイ島マウナケア山頂の日本が世界に誇るスバル望遠鏡、そして今なお白煙を噴き上げ、真っ赤な溶岩を見せる活火山キウラウエアや美しい海、壮大な夕陽などが収められています。このピアノの演奏を、ぜひ聴いていただきたいので、3名様にプレゼントします。なお、BDは96kHz/24bitの5チャンネル、DVDは48kHz/24bitのステレオですが、ステレオは5チャンネル用とは別に立てた専用のマイクで収録したものですから、この2つの違いを比べるのもオーディオとして興味深いと思います。

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 この2枚組みディスクをご希望の方は前回と同様、お名前、ご住所、電話番号を明記して、下記の私宛メールでお申込みください。オーディオに関するご意見や質問を書き添えていただけると、とても嬉しいです。抽選で3名様にプレゼントします。

宛先:funaki@sn-factory.jp