音をよくする~ケーブルの話(2)

 オーディオシステムのケーブルを替えると「愛を打ち明け合った二人が、その瞬間からまったく別人になってしまうように、音は別物になってしまった」などと、前回は柄にもないことをいってしまいましたが、そんな体験をされたのは私だけではないでしょう。もっとも体験を重ねるうちに、替えると目の前の霧が晴れるような変化に驚くのは、何もケーブルに限らないということを知るのですが。
 完全に1パッケージ化されたシステム製品は別にして、いくつかのコンポを組み合わせてオーディオシステムを組み上げた場合は、ケーブルに限らず、そのどこかを取り替えると、音が変わるのです。アンプを替えても、プレーヤーを替えても、あるいはスタンドやラックなどを替えても音は変わります。つまり、オーディオはディスクに刻まれた信号を取り出すプレーヤーから、最終的に音を出すスピーカーまで、いろいろな機器のいろいろな回路を信号が進むわけですから、その全工程のどこかを替えれば、最終的に音の変化となって聴き取れるのです。
 ただ問題は、“いい音”に変わることばかりではない、ということです。何かを替えて音が変化すると、多くの場合“いい音”に変わったような気がするものです。そんなときは、聴きなれたディスクを何度も聴いてしっかり変化を確認することが大切です。恋人も付き合いなれてくると、つい他の女性に目移りがするものですが、そうだからといってすぐに恋人を取り替えるのが無謀であるように、オーディオも単に気まぐれからあちこちに変更を加えるのは健全ではありません。
 ケーブルに話を戻します。ケーブルの役割は機器間の信号を受け渡しすることですから、非常に重要なパーツなのですが、昔はあまりこれに神経を使う人は多くありませんでした。前回お話したように私もその1人でした。しかし、戦後の荒廃から日本が目覚しい立ち直りを見せ、オーディオの普及が進んできますと、しだいに主要機器だけではなく、ケーブルの品質にも関心がもたれるようになってきたのです。
 オーディオ製品の接続に使うケーブルは、かつては他の電気製品に使われるものの中から適当なものを選んで線材メーカーから仕入れているのが一般的でした。しかし、ケーブルの重要性に気づいたオーディオメーカーは、しだいに自社の特注品を線材メーカーに作ってもらうようになります。線材そのものの選択、被覆材の材質、線の太さや仕上げの構造など、細かな点にまでオーディオ的に有効と思われる工夫を凝らした「オーディオ専用のケーブル」が生まれてくるようになって今日にいたるのです。

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 この写真は比較的新しいケーブルで、オーディオメーカーが設計して、線材メーカーに特注したものです。RCAピンやXLRバランスプラグなどを装着した信号ケーブル、端末にしっかりしたプラグをつけたスピーカーケーブル、そして機器と電源コンセントを結ぶ電源ケーブルなどです。
 アイソのない単なるグレーの“線”ではなく、色も鮮やかな被覆材をまとったものが多く、専門店のアクセサリーコーナーに行くと、いったいどれを選んだらいいのか戸惑うほど品揃えが豊富です。写真にあるのは、どちらかといえばスタンダードなケーブルですが、お店によっては、驚くほど太いものや、端子の手前に何が入っているのかよく分からないボックスを装着したものなど、特殊なものもあります。
 そして、もっと驚くのは、その価格です。1メートルあたり、何千円から何万円、ときには何十万円なんていうのもあります。う~ん、そこでケーブルに対する私の考えを参考までにお話することにします

●ケーブルを選ぶ基準はあるのか
 ケーブルの中を信号が流れる状態は、誰にも見ることができません。時々オーディオ雑誌や、電気関係の専門書に信号伝送の図のようなものが掲載されていますが、あれはすべて模式図といって、想定される信号の流れはたぶんこうだろう、こうに違いないという概念を分かりやすく説明したものです。実際にケーブルにどのような化学変化が起こっているのか、あるいはどんな不思議な現象が起きているのかは、電子顕微鏡でも見えないのです。
 ただ、音声信号(映像も同じ)は電気信号ですから、電気の知識が役に立つことは間違いありません。抵抗値が低く、静電容量が適度であること、不純物を含まないこと、硬度が適度で柔軟性があること。そして、オーディオでは振動や、外部からの不要ノイズが混入したり、電波を拾ったりしないことも重要です。
 オーディオのケーブルは、極端な表現をしますと、抵抗器、コンデンサ、アンテナのような役割をもっていることを知る必要があります。形は単なる線ですが、それがもつ性質は、機器の中に装着されている抵抗やコンデンサ、コイルなどと似た働きがあるのですね。
 そのため、ケーブルを替えると、音が変わるのですね。しかし、ここで注意しなくてはいけないのは、本来もっている性質は電気部品と同じような「L、C、R」ですが、ケーブルの役割は、機器のように信号に直接的に関与することではありません。あくまでも機器間でやり取りする信号をロスなく、色づけすることなく伝送することなのです。これがケーブル選びの基準になります。繰り返しになりますが整理すると、こうなります。
「ロスなく、色づけなく、そして外部からの影響を受けずに機器間の信号を伝送する」

 こういっても、信号伝送の模式図と同じで、理屈は分かったが、実際にどうすればいいかは、なかなか難しいですね。そこで、私流の実践方法を簡単にご披露しましょう。
 ケーブルは信号ケーブルであろうが、スピーカーケーブルであろうが、線材は適度な太さをもつ純度の高い銅線、構造は単線でも細い線を束ねたものでも、縒り線でもかまわない。トータルな線材の断面積が一定の太さであればいい。被覆材は説明書を読んでもよくわからないので、手に持った感触で極端に硬くこわばっていない、柔軟性があること。何重にも線やら絶縁材が巻かれていて、極端に太くて重たいものは避ける。
 そして、線材メーカーに叱られそうですが、1メートルあたりの単価が1万円以下であること。ただし、高性能な端子が付属している場合はその分を加えた程度の価格。要するに、趣味の世界は何をしても自由ですが、10万円のアンプと5万円のプレーヤーを組み合わせるのに、信号ケーブルが10万円、というのはバランスを欠いていると思います