オーディオの“いい音”って何?

 新年も早2月。年々時間の速度が速まるような気がするなあ、とお嘆きの皆さま、そんな時には“いい音”で“いい音楽”をじっくりと聴いてください。時間の速度をしばし忘れることができるかもしれません! そこで今日はまず私の愛聴盤を2枚ご紹介いたしましょう。
 モーツァルトの「グラン・パルティータ K.361」と、シューベルトの「交響曲第9番“ザ・グレイト”D.944」の2曲です。どちらも、長~いことで有名です。私の選んだディスクのトータルタイム表示を見ますと、モーツァルトは48分44秒、シューベルトは56分43秒とあります。これより長い曲はいくらでもあるのですが、なぜかこの2つは長く感じる人が多いのですね。
 どちらも名曲ですから名盤も数多く、私もそれぞれ何枚かずつもっているのですが、今日はデジタル録音になってからの盤で選びました。モーツァルトは1984年7月録音で、演奏はアカデミー室内管弦楽団のメンバー。ネヴィル・マリナーが指揮をしています。現在の品番は「PHCP-1709(ユニバーサル ミュージック)」。そして、シューベルトは1993年2月に録音された、カルロ・マリア・ジュリーニ指揮、バイエルン放送交響楽団のもの。現在の品番は「SICC269(ソニー・ミュージック)」。

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 モーツァルトのこの曲は、5種類の管楽器12人とコントラバス1人の13人による編成ですが、コントラバスのパートをコントラファゴットで演奏することもあるので、「13管楽器のためのセレナード」などとも呼ばれています。私が選んだ盤の演奏はオリジナル編成のままコントラバスです。聴き進むうちに、日常の面倒なことや気になることが次第に遠くなり、ひたすら美しいメロディーと楽器の響きに引き込まれていきます。繰り返しが多いのもこの曲では効果的です。
 すっかりモーツァルトの世界に浸りきった後半、音楽は変奏曲形式の第6楽章に差し掛かります。魅力的なメロディーが次々に繰り出されてきて、時間の流れをすっかり忘れてしまいそうになるのですが、そこにオーボエがこの世のものとは思えない、心の隅々にまで浸みこむような甘く切ない、そして安らぎに満ちた歌を歌うのです。何度聴いても、このメロディーが始まると、何ともいいようのない深い幸福感に満たされ、その部分が永遠に続いてほしいとさえ思えてきます。温かい命の水に浮かんで胎児が聞く母の心臓の拍動と血流の音はきっとこんな響きかもしれない、などと思えてくるのです。

 そして、シューベルトの交響曲9番。私が高校生の頃は第7番と呼ばれていましたし、第8番だったり第10番だったりと混乱しましたが、現在は第9番が一般的でしょう。ハ長調の大交響曲なんて、いうことも多いですね。ベートーヴェンがこの曲の楽譜を見て「いい音楽は少し離れたところから楽譜を眺めただけですぐにわかる」といった、という逸話をどこかで読んだ記憶がありますが、これは記憶違いかもしれません。
 それはともかく、ハイドンやベートーヴェンの簡潔で均整のとれた交響曲に比べると、息の長い旋律が繰り返し押し寄せてくる、うねうねとした印象が実際の時間経過よりも長いと感じさせるのでしょうね。しかし、この曲の天国的な美しさと、時間の流れを忘れさせてくれるような響きは、聴き進むうちに“生きていることの喜び”を心の底から感じさせてくれます。私はツライことがあると、よくこの曲を聴きます。

 ところで、私は高校生のころから、当時の音楽の先生のお陰で、生の演奏に触れる機会が多かったのですが、この2曲のような作品を聴く機会は昭和30、40年代(1955~1975)にはあまりありませんでした。また、レコードもそのころの私には買えませんでした。
 1970年代後半になってやっと安物ですが自前のオーディオ装置をもち、レコードやCDを買えるようになり、こういう長い曲を自分の家で聴けるようになったのです。そして、オーディオでたくさん音楽を聴くうちに、オーディオには“いい音”と、そうではない音があることを知りました。やがて、音楽・オーディオ雑誌の編集者となり、一般の人よりかなり多くのオーディオ機器を耳にする機会を得て、オーディオの不思議さにますます驚きを深めることになります。
 たとえば、オーディオ機器について論じるには、“いい音”とは何かについて、明確なイメージをもっていなくてはならない、と私は信じているのですが、これがオーディオ界では、必ずしも常識とはなっていないことを知りました。というわけで、このブログでは、いろいろな製品をご案内しながら、折に触れてオーディオにとって“いい音”とは何かについてお話したいと思っています。
 私が自分の買ったスピーカーで、初めて“ああ、いい音だ”と心底納得できたのは、もう今では目にすることも稀になりましたが、このスピーカーです。写真ご覧いただきましょう。アメリカの製品でインフィニティ(Infinity)の「IRS BETA」です。(この項次回に続きます)

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