xrcd とEsotericのリマスターディスク~“いい音”と“マスタリング”の関係(4)

・音のビクターがアナログ名盤のCD復刻に乗り出す意義

 CDのディスクには音楽情報がデジタル記録されています。そして、その記録の規格が統一されていなければ互換性が失われます。LPの場合も音溝に45度の角度をもって左右チャンネルの信号を記録するとか、高域特性を向上させるためのRIAA曲線の採用などという規格が統一されていますが、CDの場合は量子化とサンプリング周波数の2つが統一規格の核となっています。
 まず、サンプリング周波数は、どのぐらいの時間間隔でデータをとるかということで、CDは44.1kHz、つまり44,100分の1秒に1回という頻度でサンプルをとるということです。量子化とは、サンプリングで得られたデータをどのぐらいの精度で記録するかということで、CDは16bit、つまり2進法16桁の数値で表わすということです。
 CDの音質はこの2つの規格によって大きな制約を受けています。ここでいう音質は、本欄でしばしば申し上げている“いい音”とは少し次元が違うもので、音の骨格(基本性能)とでもいうものです。たとえば、サンプリング周波数によって、音の高低幅が制約を受けます。
 44.1kHzのサンプリング周波数では上限が20kHzとなります。下は規制されていませんが、原則として20Hz~20kHzとされ、これをCDの再生周波数帯域といいます。そして量子化数によって音の大小の幅が制約されます。16bitでは理論的には約96dB(デシベル)、実際は90~98dBとなります。これをCDのダイナミックレンジといいます。
 CDの規格は、人間の聴覚生理学や音響工学から、あるいは音楽の専門家の聴感テストによって、素晴らしい音質を記録再生するに十分なものとして考えられました。しかし、人間の感覚というものは本来贅沢に出来ているらしく、どんなにいいものでも、しだいに欠点が見えてくるものです。
 CDの場合も、たとえば高域は10kHz以上では人間の聴覚はどんどん鈍くなり、10数kHz以上を実音として聴きとれる人はほとんどいないのですから、20kHzまでで十分と思われていました。しかし、20kHz以上がまったくないものと、それ以上の帯域まで伸びているものとの違いは、人間は聴き分けることができる、そういうことがわかってきたのです。
 そこで、CDの2つの基本規格を変えることは、メディアとしての互換性を失いますので出来ませんが、録音が終わった時点から、ディスクになるまでの過程を、つまりマスタリングの段階を、より大きなデジタル規格で処理することによって、CDをさらに“いい音”にできないか、ということが研究されるようになったのです。
 その成果で生まれたのが、ハイビット、ハイサンプリング(オーバーサンプリング)に代表される技術です。この新技術はもちろん、新しいデジタル録音のマスタリングにも大きな効果があります。しかし、元がアナログ録音の場合は一段と大きな効果をもたらします。すでにアナログで録音された音源は、従来のCD規格のマスタリングでCD化されるより、はるかに大きな規格で処理されますから、アナログらしい音の充実感を、より高い精度でCDに復元することができるのです。
 XRCDの技術によって、かつてのRCAの名盤が、LPで聴く以上に本来の音はこうであったに違いない、という音でCDで甦ったのだといっていいでしょう。写真は1枚目が前回ジャケット写真を紹介した、最初に発売された、シャルル・ミュンシュ指揮、ボストン交響楽団の演奏による、ベルリオーズの「幻想交響曲」のケースを開いたものです(JMCXR-0001)。左側は解説書で、右はディスクですが、全体の構造はとてもしっかりして、しかも優れた音にふさわしい高級感にあふれています。2枚目の写真は同じミュンシュ指揮、ボストン交響楽団の演奏で、サン=サーンスの「交響曲第3番オルガン」(左、JMCXR-0002)、そしてドビュッシーの交響詩「海」とイベールの交響組曲「寄港地」(右、JMCXR-0003)です。

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・アナログ録音のCD化のメリットとビクターの意気込み

 こういってはアナログファンのお叱りを受けるかもしれませんが、LPで最善の音を出すのは容易なことではありません。ターンテーブルからアーム、カートリッジ、イコライザーアンプまで再生に関わる機器のグレードも、ピンからキリまであって、相当な費用をかけなければ満足できる音質は得られません。またそれらの機器の組み合わせや微妙な調整など、使いこなしにも相当の腕前が必要となります。
 音響工学的には、1つ簡単な例をあげますと、録音のマスターはテープですから、音楽のどの部分も同じ情報量で記録されますが、レコードディスクの回転はCAV(角速度一定)、つまり回転速度が一定ですから、レコード盤の内側と外側では、単位時間内の情報量が違います。CDはCLV(線速度一定)ですから、情報量はどの部分でも一定です。これはアナログ再生とCD再生で大きく違う点の代表的なものの1つです。
 その他もろもろの音響的条件では、CDがLPをはるかに上回っているのですが、従来のCD規格ですべての工程を処理すると、十分にアナログ録音の良さを表現することができなかったのです。
 これがxrcdの技術によって、大きく前進したのです。そして、さらにビクターは主要回路の動作精度を20bitから24bitに高め、その周辺回路の音質も磨き上げて、現在は「xrcd24(xrcd-24bit Refined Digital)」となり相当数の作品が発売されています。その技術の詳細と作品のラインナップは前回同様、「xrcdの公式ホームページ」でご覧いただけます。色文字をクリックすると該当ページが開きますのでぜひ一度アクセスしてください。

 最初の「幻想交響曲」のブックレットには、JVCマスタリングセンターの杉本一家(すぎもとかずいえ)さんのコメントが寄せられています。これによりますと、オリジナルテープはペンシルヴァニア州ボヤースのBMGの施設に保管されていたもので、これが1/2インチテープで、「L+センター+R」の3チャンネル録音だったそうです。これを録音時と同じ真空管を使ったレコーダーで再生し、2チャンネルにトラックダウンしたとあります。杉本さんはさらにこういっています。
「日本から持ち込んだ電源・信号ケーブルなどはすべて万全の音質と歴史的な感動を100%正確に伝えるという視点から選択し、3チャンネルヘッドのアジマスなどを徹底的に調整した上で、実際のトラックダウンを行った」
 機器の微細なチューニングから、ケーブルの選定まで、日本のオーディオ再生の周到さが反映されているわけで、これはまさに高く評価されるべき音楽界への貢献だと思います。