たかがディスク、されどディスク~いい音とディスクの関係(1)

 CDの盤素材はポリカーボネイト(Polycarbonate)が一般的です。話はオーディオから少しずれますが、ポリカーボネイトは日本では「ポリカーボネート」と表記するのが普通です。しかし、今は小学校から英語を教えようという時代なのですから「ポリカーボネイト」と表記したほうがいいのではないでしょうか。
 字数が増えるわけでも発音が難しいわけでもないのに、「エ」音の次に「イ」音がくると、日本ではすべて「エイ」とせず「エー」と音引きにしてしまいます。例えば、ゲイムはゲーム、ケイキはケーキ、デイトはデート、ネイムはネーム、メインはメーンという具合ですね。いくら小学生に正しい発音を教えても、学校から1歩外に出れば大人が変な発音をし、新聞雑誌からテレビまで平気で変な表記をしているのでは、子どもが混乱してしまいます。ぜひ身近なところから修正しようではありませんか。
 閑話休題。CDが普及するにつれて、より“いい音”にする方法が、いろいろな分野から提案されてきました。たとえば、盤の素材はポリカーボネイトよりいいものがある、というのもその1つです。同じ樹脂系ですが「アートン(Arton)」のほうが、解像度が高く音質も滑らかだといわれ、実際にアートン製CDが発売されたことがあります。しかし、最近はほとんど見ません。
 また、CDの蒸着皮膜を金にしようという提案もありました。CDの盤面にはピットと呼ぶ微小の凹凸が渦巻状に並んでいます。ピットは2進法16桁の数字、すなわち「1」と「0」の数字の羅列によるデジタル信号を凸凹に変換したものです。CDプレーヤーはディスクドライブメカニズムに組み込まれたピックアップからピットに赤色レーザー光を照射し、その反射光が戻ってくる時間の違いを読んで、ピットの羅列を元の数字羅列によるデジタル信号に変換します。
 蒸着皮膜というのは、レーザー光を反射しやすくするために、ピットが刻まれた面に金属膜を蒸着という方法で塗布したもので、CDではアルミが使われています。CDの裏側が鏡のように見えるのはこのためです。そして、このアルミを金にしたらもっと“いい音”になるという提案があったのです。
 この「金蒸着CD」は一時大きな話題を呼びました。“ゴールドCD”なんて呼ばれることもあり、また「純金CD」なんて下品な呼び方をした人もいます。これは結構人気があって、オーディオ雑誌でもアルミより音がいいと書くライターが多かったのです。

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 写真は普通のアルミ蒸着CDです。金蒸着CDと並べようと思って探したのですが、たった1枚もっていたディスクが見つかりませんでした。見え方はそれほど変わらなかったような気がします。
 音はケーブルを替えても変化します。ディスクの盤素材や蒸着皮膜を替えれば音は変化するのは当然です。ただし、“いい音”になるかどうかは別問題です。私がしきりに“いい音”とは何かという基準をもつべきだというのは、変化が良かったのか悪かったのかを判断する聴力を養うには、基準が必要だからです。
 ところで、アートンCDも金蒸着CDも、ちゃんと作れば音はいいほうに変化する、と私も当時感じましたが、長続きはしないだろうと、これは確信していました。というのは、変化量はそれほど大きくはないからです。その程度に音をよくしたければ、ほかにもっと各自ができる工夫があるのがオーディオの面白さなのです。機器そのもののグレードアップやセッティングの工夫などもその1つです。予想通り、アートンも金蒸着も最近はすっかり姿を消しました。
 しかし、2年半ほど前に騒がれた「ガラスCD」には、驚きました。いえ、音の良さに驚いたわけではありません。その価格です。最初は1枚20万円とかいってましたね。“たかがディスク、されどディスク”でありますねえ。このぐらいの価格になると、これは非常に狭い範囲の特殊な人のためのディスクとしかいいようがありません。
 なにしろ、CDプレーヤーは安いものは1万円を切るものもある時代です。ハイファイ志向のファンが使うCDプレーヤーの平均的価格はおそらく、現在は数万円というところでしょう。そういう人にとって、たった1枚のディスクが20万円というのは、そもそも検討する必要もない次元の話ではないでしょうか。
 しかしこれを“素晴らしい”“まったく次元の違う音”などとモテハヤス“先生”たちがいるのですねえ。朝のワイドショーの司会者も“これがいいんだよね”などと遠慮がちな声音ではありましたが、内心はずいぶん惚れ込んでいる風でした。
 私は、趣味の世界のオーディオだから、他人に迷惑をかけなければ何をどうしてもいい、とは思います。しかし、それは自ずから良識におさまる範囲で、という前提のもとでの話です。アートンや金蒸着はせいぜい通常CDの20~30%高だったと思います。
 そういうわけで、盤素材がガラスのCDの音がいいか、悪いかについては、私にはまったく関心がありません。ごく一般的な収入しかない私のような人間とは別の、特別な世界に住む人を対象にした話ではないかと思うからです。
 CDのライセンサーはソニーとフィリップスでした。そのソニーで、CD初期のことをよく知る人にこの話をしましたら、もちろんソニーはCDスタート以前に、ディスク素材を何種類もテストしたそうです。そして、音の良さだけで判断すれば、「ガラスエポキシ」がいちばん評価が高かったといいます。
 しかし、製品の安定度、製造の合理性、コストなど総合的な判断から、ディスク素材は「ポリカーボネイト」に決まったのだそうです。